「…こんなになるまで、気付かないとはな」


頭の中で声が響いた。
冷たい視線の意味を知った。


「…すまないな」
「何でェ、いきなり」
「いや、こっちの話だ」


次に、奴と会うことがあれば…―――――




の者は、





「…熊を模した面に宝剣クトネシリカ…ユーがオキクルミかい?」
「ッ、誰だ!!」
「別に、ユーに名乗るほどのもんじゃないさ」


ふわりと、どこからかオキクルミの前に現れた男は、くすくすと笑みをこぼす。


「…何がおかしいッ!!」


急に目の前に現れた名も知らぬ男に向かって、オキクルミはクトネシリカを勢いよく振り下ろした。
男は懐から綺麗な横笛を取りだしたかと思うと、その笛から若葉色の刃が現れ、クトネシリカを易々と受け止めてみせた。


「クトネシリカを、受け止めただと!?」
「…ゴムマリ君並にスウィートだなァ、ユーは。そんな事でその剣が光を宿すとでも思っているのかい?」
「…貴様、何を知っている」
「ミーは何も知らないよ?ただ、ユーが気付かなければその剣に光が宿ることはないし、…彼女をも殺してしまう」


低く、くぐもった声が、鋭く冷たい視線が。
その男のすべてが、オキクルミをとらえて離さなかった。
(クトネシリカを握る手は微かに震え、さっと体中の体温が持っていかれた気がした。それほどまでに、この男を怖いと思った。)


「ま。どちらにしろユーに任せるしかないんだけどね。早いとこその剣をブルーに光らせてもらわないとね…」


ふっと、今までオキクルミの体を包んでいた男の感覚が消え、クトネシリカをぎゅっと握り返す。
その手には、じわりと汗が噴き出るのを感じた。


「それじゃ、ミーは消えるとするよ。…あ、そうだ。一つだけ」


くるりと、オキクルミに背を向けた男――ウシワカは、何かに気付いたようにオキクルミの方へ向き返る。


「じきに、彼女が此処へ来る。…きっとユー達の力になってくれるさ」


それだけ言うと、ウシワカはオキクルミの目からぱっと姿を消した。
しばらくの間、オキクルミはその場から動けなかった。

そして、オキクルミの前にウシワカが現れてから数日後のことだった。
彼女――アマテラスがカムイにやってきたのは。



「…どうしたィ、オキクルミ。ボーっとしちまってよ」
「いや…。そんなことよりさぁ、早く行け」
「あァ、お前も早く来いよォ?」
「わかっている…遅れはとらんさ」


隣に横たわる白銀の毛並みを持つ狼をそっと撫でてやると、小さくワンと吠える。
その狼の相棒であろう、コロポックルが戻ってくるのを見て、そっとその場を離れた。
そして、一つ一つを確かめるように足を進めた―――自分のこの手で、守るために。




06 9/24(07 12/12)
(ウシワカが一方的にクルミを嫌いだといい。何)