月夜に桃色の花びらが舞う。その花びらに乗せて、どこからか笛の音が聞こえてくる。 綺麗な、しかしどこか切なさがあるその笛の音。 「…また来ていらしたのですか、ウシワカ殿」 「…どうも、心配でね。アハハ、心配はおかしいかな?」 神木村にそびえ立つご神木の精、サクヤが彼―――ウシワカに訪ねる。 ご神木かの枝から、音もなく地上へ降りたウシワカは、その根元に祀られている一体の像に近づいてそっと、触れる。 「早く…早く起きてよ、アマテラス君…。ユーがいてくれないと、」 続く言葉を、ウシワカはぐっと飲み込んだ。 これは、これだけは、口に出してはいけない。弱音、なんて…吐いてはいけない。特に、彼女の前では。 「…ウシワカ殿」 「…こんな夜更けに邪魔したね。また、来てもいいかな」 「もちろんですとも。アマテラス様もきっと喜ばれます」 その言葉を聞くと、ウシワカはニコリと笑い、瞬く間にその場から姿を消してしまった。 それから、どれほどの時間が流れただろう。巨大な呪がナカツクニを覆い尽くした頃、彼女―――アマテラス大神は百年もの眠りから目を覚ます。 そして今、目覚めたばかりの彼女を目の前にして、嬉しさと絶望が入り交じった様な感情が体の中を駆けめぐる。 あの神木の枝から、好きだと言ってくれた笛を吹きながら幾月、幾年も待った。 それなのに、ユーはまたゴムマリ君を連れて、自分の身を危険にさらすんだね… その、弱りきった力で。 さぁ、この手で舞台の幕を上げよう。そして、この手で舞台の幕を引こう。 もう、彼女が傷つかなくてもいいように。 「…久しぶりだね、アマテラス君」 この手で幕を引くことは、出来なかったけれど。
月の音色 06 9/9(07 12/12) (なんという捏造ストーリーw) |